人生の終焉は、新たな始まりへの扉。母の最期の願いは、その始まりの場所への帰還でした。北九州の海を見守るように鎮座する和布刈神社。幼い頃から幾度となく家族で訪れた、私たちにとって特別な場所。その海に、母の魂を還す日が来るとは、人生とは何と不思議な巡り合わせでしょうか。
和布刈神社で海洋散骨
古くは神功皇后も訪れたと伝えられる由緒正しきこの神社は、毎年元旦に行われる和布刈神事で知られています。海との繋がりが深く、航海の安全や大漁を祈願する人々から篤く信仰されてきました。母は生前、「いつか海に還りたい」とよく話していました。故郷の海を愛し、その力強さ、優しさに包まれたいと願っていたのです。病床で弱っていく母の手を握りながら、私はその願いを必ず叶えると心に誓いました。そして、母の故郷とも言えるこの和布刈神社の海こそが、その最期の場所にふさわしいと確信したのです。

導きの神様が鎮座する和布刈神社
けれども、現実はそう簡単ではありませんでした。大切な人を失う悲しみ、手続きの煩雑さ、そして何よりも、母との永遠の別れを受け入れることの難しさ。様々な感情が押し寄せ、心が押しつぶされそうになる日々でした。そして、和布刈神社の社務所で海洋散骨の手続きを行いました。神職の方は、私の気持ちを丁寧に受け止め、厳粛な態度で説明してくださいました。必要な書類、散骨の方法、当日の流れなど、細部に至るまで丁寧に説明していただき、不安な気持ちが少し和らぎました。

心の故郷で叶えた母の遺骨
そして、ついにその日が来ました。澄み渡る青空の下、静かに波打つ玄界灘。和布刈神社の神職の方々の祈りの中、母の遺骨はゆっくりと海へと還っていきました。風が優しく母の髪を撫でるように吹き、波音が子守唄のように響きます。その光景は、まるで母が海に抱かれ、安らかな眠りについたようでした。
その瞬間、私は深い悲しみと共に、感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。母の願いを叶えられたこと、そして何よりも、母と過ごしたかけがえのない日々への感謝。母は確かにこの海に還り、私たち家族の心の中で永遠に生き続ける。そう確信しました。
導きの神様が鎮座する和布刈神社
和布刈神社は、私たち家族にとって、単なる神社ではありません。それは、母との大切な思い出が詰まった、魂の故郷なのです。これからも、この場所を訪れるたびに、母のことを思い出すでしょう。そして、いつか私も、母の待つ海へと還っていくのかもしれません。
大切な人を亡くされた方、故郷を遠く離れている方、和布刈神社の海は、きっとあなたの心を癒してくれるでしょう。ぜひ一度、訪れてみてください。
